現代の私たちにとってはあまり使用する機会はないかもしれませんが、五月晴れという言葉を聞いたことがあると思います。
五月という言葉からして、想像するのは五月の晴れですよね?実は間違いではないですが、使用用途や読み方によっては五月の晴れではない意味になるのです。
本来、日本の俳句では五月晴れは季語として用いられていました。
読み方はさつきばれです。さつきばれには、梅雨の間の晴れ間という意味があり、梅雨の中休みともいいます。
五月晴れの五月(皐月)は、旧暦では5月を表しており、現在の暦では6月から7月にあたるため、当初から梅雨の中休みのことを表していたのです。
暦について少し詳しくお話しますと、元々は旧暦である太陰太陽暦(たいいんたいようれき)が使われており、月の動きを基準として考えられていました。
しかし1872年からは、太陽の動きを基準とした新暦である太陽暦・グレゴリオ暦が使用されるようになったのです。
旧暦と新暦の違いには1ヶ月ほどの違いがでるため、使用される言葉にも違いが生じているのだと考えられます。長雨が続く梅雨の合間に訪れる貴重な晴れの日を特別なものだと感じ、五月晴れと付けられたのだと思います。
別の読み方として、ごがつばれという読み方があります。
さつきばれを知らない人にとっては、ごがつばれと読む方がしっくりくるのかもしれません。
この読み方の場合は、現在の新暦である5月の晴れの日のことを表しています。ですが、この現在の5月の晴れの日のことをさつきばれという言葉で表す人は数多く存在します。
そのため、現在では5月の晴れのことをどちらの言い方をしても意味が通じるようになっていますが、辞書などには、2つの読み方が記載されており、意味もそれぞれの本来の意味が記してあります。古代の人々が考えた言葉は、奥深い言葉が多いですが、暦のズレから意味が違ってくるとなるのは日本語の難しい所だなと感じます。天気予報でも、読み方の決まりというのは特にないようです。
五月晴れ(さつきばれ)を季語に用いた俳句をご紹介します。
正岡子規
うれしさや 小草影もつ 五月晴(うれしさや おぐさかげもつ さつきばれ)
夕顔の 苗売る声や 五月晴(ゆうがおの なえうるこえや さつきばれ)
堀麦水
朝虹は 伊吹に凄し 五月晴れ(あさにじは いぶきにすごし さつきばれ)
小林一茶
虻出でよ しやうじの破れの 五月晴れ(あぶいでよ しやうじのやぶれの さつきばれ)
五月晴れは俳句の夏の季語として、さつきばれと読まれ、多くの俳句に用いられてきました。
旧暦が基本となる俳句の季語ですが、現在ではごがつばれの読み方を俳句に使用する人も出てきているようです。
ごがつばれの読み方であっても、さつきばれと同様に夏の季語となります。ですが、やはり俳句の世界では、旧暦の季語として用いられることが多いため、現在の新暦に合わせた意味で五月晴れを使用するのは、御法度とされる場合もあるようです。
このように、読み方の違いによって意味が異なる言葉というのは他にもたくさん存在します。
本来の言葉の意味を知らずに使用された言葉が定着し、現代に合わせた言葉が生まれ変化していくということは、時代の流れとともに日本語は知らず知らずのうちに様々な形へ変化しているということです。旧暦の時代の言葉の意味を知ることで、どのように変化をしているのか感じるのも面白いかもしれません。
ちなみに、梅雨にまつわる言葉として、五月晴れの他に五月雨や五月闇という言葉もあります。五月雨はさみだれと読み、旧暦の5月の梅雨の雨のことなので、これもまた現在の6月から7月の梅雨の雨ということになります。五月闇はさつきやみと読み、同様に旧暦の5月の梅雨の頃を闇として表した言葉になります。
旧暦と現在の新暦とのズレを知らなければ、五月晴れのように五月という文字を見ただけで、5月の言葉なんだと通常なら思うはずですよね。
しかし、誤った使い方が意味は違えどたくさんの人に認知されていくことで、新しい言葉として正しくなっていくというのは不思議なものです。
本来であれば、梅雨の長雨によるどんよりとした空や気持ちの優れない時期に、明るい晴れ間がのぞいて気分が晴れやかになる、そんなときに使用されていた言葉です。まだ春の終わりを感じさせるような現在の5月の天気とは違い、梅雨が終わったあとの真夏の暑さをもう少しで感じさせるような晴れ間のことを表していたのです。
日本には様々な行事があり、古代から受け継がれている行事などは、今もなお旧暦で行っているところもあります。
現在の新暦と旧暦の季節のズレは、言葉の意味にも大きく影響していることから、全てを同じ意味として使用するのはなかなか難しいことだなと感じます。梅雨が始まり、梅雨の間の晴れ間があれば、ぜひ五月晴れを思い出してみてください。