2020年は台風の発生が比較的遅かったものの、「過去最強・未曾有の被害の可能性がある」と報道され、多くのかたが事前に備えを行った『台風10号』が発生しました。
この台風10号の名前、ニュース等で耳にして覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その名も『ハイシェン』、中国語で『海神』という意味だそうですね。
台風らしい荒々しさを想起させます。
しかし、この次の台風11号は『ノウル』、北朝鮮語で『夕焼け』というどこか美しい名前がつけられました。
ともすれば甚大な被害をもたらす台風になぜこういった様々な国の言葉で、しかも美しい名前がつけられることもあるのでしょうか。
今回はこれらの台風のユニークな名前を紹介し、またその名前がなぜつけられるのかを紹介していきます。
日本や各国でつけられた台風の名前
ここでは、日本名でつけられたものから、ユニークな由来を持つものまで、様々な観点から台風の名前をご紹介します。
日本名の台風
実はこの台風名、日本の名前もついていることをご存じですか?
ここ数年のうちにつけられた名前を近い順に4つご紹介しましょう。
- 2020年台風13号『くじら』
- 2019年台風28号『かんむり』
- 2019年台風14号『かじき』
- 2018年台風29号『うさぎ』
なんだか可愛らしく感じられる名前ばかりですよね。
『くじら』『かじき』は海の生きものなのでまだしも、『かんむり』『うさぎ』はあまり台風に似つかわしくない気もします。
この4つの名前には共通点があるのですが…おわかりになりますか?
実は、これらは『星座』に由来した名前なんです!
では他国も同様なのでしょうか。
カンボジア名の台風
『ナクリー』・・・日本では『夜香木(ヤコウボク)』と呼ばれている、ナイトジャスミンのカンボジア名です。
『チャンスー』・・・日本では『月下香(ゲッカコウ)』と呼ばれている、チューベローズのカンボジア名です。
『クロヴァン』・・・カレーなどのスパイスとして用いられるカルダモンが採れる植物のカンボジア名です。
『メイサーク』・・・家具などに用いられる高級木材・チークのカンボジア名です。
これらのように、カンボジアの台風名に星座由来のものはありません。
10個のうちの4個がこのような植物由来の名前になっています。
植物名は他国でも多く採用されていますが、カンボジアの場合は、ただ美しいという植物ではなく、「香り」「スパイス」「木材」として国内で非常に親しまれ、国外でも知られているものが選ばれているようです。
その他のユニークな由来を持つ台風
『ウーコン』(中国):孫悟空。言わずと知れた傑作古典『西遊記』に登場する猿の従者で、玄奘を助け、猪八戒と沙悟浄と共に天竺を目指します。
『メーカラー』(タイ):海と雷の女神。彼女に恋した鬼が鎌を投げてつけてくるのを、水晶から雷を放って振り払います。これがタイの稲光で、落ちた鎌の音が雷鳴なのだそうです。
『コンレイ』(カンボジア):最愛の王子が自分を置いて旅立ってしまい、平伏して泣き続け、遂には亡くなってしまったという伝説上の女性。その姿に似ているというコンレイ山がカンボジアにはあるそうです。
どうして台風に名前を付けるのか?
さて、台風にこうした様々な名前を付けるのは一体だれなのでしょうか。
これらの台風の名前は「台風委員会(The ESCAP/WMO Typhoon Committee)」というアジアを中心とする14カ国によって組織された台風防災対策機関によって決定されています。
台風(タイフーン)・ハリケーン・サイクロンは全て一定以上の規模の熱帯低気圧を指しますが、そのいずれであるかは地域によって決まります。北西太平洋・南シナ海上で発生したもののことを「台風」と言うため、台風被害はこの周辺地域に限られるため、この14カ国で組織されているというわけです。
では、どうしてこのように台風に各国の名前を共通で付けるのでしょうか。
台風委員会が台風にこうした名前をつける理由は2つです。
⑵アジアの人々になじみのある呼び名をつけることによって、人々の防災意識を高めること
つまり、14カ国それぞれ台風の被害はあるわけですから、その地域の人々にとってなじみのある呼び名をつけ、お互いの文化を理解しあい、共に防災に励んでいこうというのが、この名前を付ける意図なのです。
日本の台風名は星座名で万国共通です。
こうした名前は「ああ日本では『usagi』と呼ぶのか」と、共通の知識から理解してもらいやすいですね。
それに対して、カンボジアの植物名やユニークな名前の神様や伝説上の人物名などは、その国にどんなものがあるのか、どんな文化があるのかを、その名前をきっかけに知ってもらおうという意図が感じられます。
台風の名前は前もって用意されている
この台風の国際名は、元々米国が英語名をつけていました。
戦後の日本に甚大な被害をもたらした「カスリーン」のように、当初は女性名が、1979頃前後からは男性名と女性名を交互に名簿化して、順番につけられていたのです。
しかし、アジア地域で起こる台風ですから「米国の女性・男性名」ではなく、アジア地域各国の馴染み深いものに命名しようと、2000年から14カ国各10個ずつ提案した名前の一覧を作り、順繰りに命名していくという方法に変更されました。
こうした名簿形式だからこそ、台風の名前が発生当初から既に決まっているのですね。
リストアップした名前全てを使ったら
ちなみに、この140個の名前を使い終えたらどうなるかというと…また最初の名前に戻って順番に命名していくことになるそうです。台風の発生数は年間概ね25個ですから、約5年後には、また同じ名前の台風が現れるという仕組みになります。
大きな被害をもたらした台風の名前は変わることも
実は、各国で大きな被害を出した台風につけられていた名前は、その国からの提案によって「引退」となり、新たな名前が追加される仕組みになっています。
まとめ
以上のように、発生当初からつけられる台風の国際名はアジア地域の文化のかけ橋であり、台風への防災意識の象徴でもあります。
14カ国10個ずつの名前が、「あ、またメイサークが来たんだ」「お、日本名のusagiがまた使われたんだね」というように、いつまでも変わらずにアジア地域の人達に親しまれ、各国の異文化理解のきっかけとなるものであり続けて欲しいですね。
そのためにも、私たちも日頃の台風への防災活動にしっかりと取り組みましょう。