近年、省エネと環境への配慮から、屋上の緑化はさらに注目を集めるようになりました。
しかし、植物が建物に与える影響について、具体的に知る機会は少ないものです。
街路樹が植えられた歩道を歩いていると、アスファルトが盛り上がっていたり、ひび割れているのを目にすることがあります。成長と共に根も力強く伸びているのだと知らされます。
植物の根の影響は、屋上の緑化にどのような影響を与えているのでしょうか。
●屋上の植物が与える影響
●突き破ろうとする力
●持ち上げようとする力
●防水層を防御する
●まとめ
屋上の植物が与える影響
鉄筋コンクリート造の建築物の屋上に、木や草花を植えることは、基本的にみて望ましいものではありません。植物の根が建物に損傷を与える危険性があるからです。植物の根や地下茎は、想像以上に強力で凄まじいものがあります。
植え込みの根元に使われるクマザサは、屋上の防水層を突き破ります。防水層の接合部分に地下茎が侵入したのです。
緑化した屋上では、アスファルトを敷きモザイクタイルで装飾し、遊歩道を作り、ガーデンファニチュアを設置して、憩いの場に仕上げます。植栽された草花の成長を損なわないようにしながら、建物への影響を抑えることは、たいへん難しい問題なのです。
防水シートの繋ぎ目のわずかなすき間でも根は入り込み、建物のコンクリート面に密着するように根を張っていきます。植物が成長するには、水が欠かせませんから、雨降り後の水を吸い上げてくれますが、その勢いのままに建物に損傷を与えているのです。
突き破ろうとする力
植物が防水層などを突き破ろうとする力は、どれぐらいなのでしょうか。
屋上緑化に用いられる植物の中で、最も危険だと言われるのに「クマザサの地下茎」があります。地下茎の脇から出ている根は細くて弱弱しいのですが、地下茎の先端は鋭くとがっています。緑の美しいことで良く屋上庭園などに利用される芝も、クマザサと同じように鋭い地下茎で根を張り巡らせます。
クマザサが突き破ろうとする力を計測した記録があります。なんと、地下茎は1日1回の脈動を繰り返しているというのです。その力は、水で湿らせ少し柔らかくなったつまようじの上に1リットルのペットボトルを載せた程度の圧力。自分の手でやってみると、結構痛いとのこと。
脈動することにおどろきです。昼間に下がり、夜に上昇するのですが、これは植物の葉にある気孔が影響しているのだとか。昼間に気孔が開いて水分を放出し、夜は閉じているので、水分がたまって強い力を生み出すのです。
地下茎は、1日1回の脈動を繰り返すことで、防水層に大きな負荷を与えているのです。
持ち上げようとする力
先に歩道の樹木の根について少し書きましたが、ここでは、持ちあげる力を取り上げます。
「持ちあげる力」は根の肥大に起因しています。特に植栽に木本類植物を使う場合に問題となってきます。
桜や紅葉などは街路樹や庭園に使われますが、桜の樹の根の肥大力も、地下茎同様に1日単位で脈動を繰り返しています。数値では分かりにくいので簡単に表現すると、その力は小型の重機相当になるそうです。植物は想像を絶する力持ちなのですね。石を動かし、フェンスを巻きこみ、アスファルト舗装にひびを入れて割っていくことなど、たやすいことなのです。
防水層を防御する
根の突き破ろうとする力に対して、普通のアスファルト防水、シート防水、ウレタン防水では、地下茎が防水層を貫通してしまいます。それを防御するために「耐根シート」を防水層の上に敷設するのが基本になります。施工の際には、耐根シートの繋ぎ目はしっかりと接合しなければなりません。いくら耐根シートでも、接合を怠ると地下茎や根が隙間から侵入して伸び、結局は防水層に損傷を与えてしまいます。
防水層でも、塩ビシート防水層、FRP防水層は、ある程度の耐根性があるので、耐根シートを省略できる場合もあります。
防水層の上に押さえのコンクリートを打設した場合も、耐根シートを省けますが、コンクリートの目地が弱点となるので、注意が必要になってきます。
持ち上げようとする力に対して、街路樹などはほとんど対策がされておりませんが、屋上の歩行面では、土壌層が薄く影響は大きくなり、不具合が生じる可能性があります。
重機並みの力を持つ植物を、力づくで抑え込むのは難しいでしょうから、できるならば十分な土壌層厚を確保して、根を深い位置に植え込むなどの工夫が必要かも知れません。
まとめ
緑化された屋上で、ゆっくりくつろぐ時間は格別ですが、時に足元のアスファルトが凸凹しているのに気づくことがあります。綺麗に整えられた芝の端にシートを突き破る地下茎を目にしたこともあります。植物の力とは、ものすごい威力なのだと知りました。空き家になった家の外壁を、ツタが覆い尽くしているのも見かけます。植物が家屋やビルの劣化を早めて、朽ちさせるのに、それほど時間が掛からないのかも知れません。だからこそ、適切な施工とメンテナンスが必要なのだと考えさせられました。