酸性雨とは、環境問題の一つとして問題視される現象で、大気汚染により降る酸性の雨のことです。二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)などが雨・雪・霧などに溶け込んでしまい、通常より強い酸性を示します。 酸性雨は、河川や沼、土壌や池などを酸性化して生態系に悪影響を与え、建物や文化財などのコンクリートを溶かしたり、金属に錆を発生させるなど、劣化に繋がる被害を与えます。
実は、通常の雨も全く不純物を含んでいないわけではなく、二酸化硫黄や窒素酸化物を含んでいるのです。では通常の雨も酸性雨なのでは?と思いますよね。酸性雨には間違いないのですが、酸性雨と呼ばれる雨とは大きな違いがあります。
液体がアルカリ性か酸性かを示すph(ペーハー)値というものがあります。低くなると酸性、高くなるとアルカリ性となり、7phを示すと中性と言われています。ですので、7phよりも高ければアルカリ性、低ければ酸性となるわけですが、通常の雨は5.6ph付近を示し酸性ではありますが、5.6ph以下の値を示すものを酸性雨というので、同じ酸性でも示す値が違うというわけです。
ちなみに塩素は0ph、酢は3ph、コーヒーや牛乳は6ph、水は7ph、海水は8ph、アンモニア水は11ph、水酸化ナトリウムは14phとなります。
ph値は、1ph下がれば酸性度が10倍上がり、2ph下がれば酸性度は100倍にもなります。
酸性雨の原因は何なのでしょうか。
人間が開発した自動車、様々な物を製造する工場などから硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などのガスが排出されています。これらが大気中で、硫酸(H2SO4)や硝酸(HNO3)といった強い酸に変化するのですが、これが雨・雪・霧などに溶け込み酸性雨となってしまうわけです。また、人為的に発生するガスだけでなく、火山活動によって排出されるガスにも、同じく硫黄酸化物が含まれているので、これらも原因の1つとなります。
恐ろしいのは、酸性雨は、これらを多く排出している地域だけに降るとは限らないことです。多くの原因物質が発生している地域から、500〜1,000kmも離れた地域に空気と共に運ばれ、それらは国境を超え、世界のどこに広がるのかはわかりません。世界の至る所で発生した物質が運ばれ酸性雨を降らし、被害を与えてしまうのです。
日本を含む東アジアの地域では、工業化が進んでいるため、酸性雨による大きな被害が心配されています。酸性雨対策として、東アジアの13カ国が参加した「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」というものが作られ、酸性雨を継続的に測定するなどの活動が行われています。
世界でも酸性雨対策の取り組みは行なわれており、長距離越境大気汚染条約(ウィーン条約)というノルウェーが提案した条約があり、ヨーロッパを中心に49カ国が加盟しています。
酸性雨は、人間にものすごく被害を与えた過去があります。ロンドンスモッグ事件といい、1952年イギリスのテムズ川流域で起きました。酸性雨などの大気汚染が原因で、たった4日間で約4,000人もの人々が、次々と命を落としてしまったのです。当時、イギリスでは石炭を主な燃料としていたことで、大量の二酸化硫黄などが排出されていたことが原因で、1.5pHの非常に強い酸性雨が降ったのです。レモンより酸っぱい雨と呼ばれる雨です。
この時に被害にあった多くの人々は、症状として呼吸困難、チアノーゼ、発熱などを発症し、発症してから数日で亡くなってしまったのです。とても悲しく恐ろしい事件です。
日本の現状はどうなのでしょうか。
phの経年推移を表したグラフを見てみると、現在でも5.6ph以下の酸性雨が降っていますが、4.5前後が多かったのに対し、近年では4.5以上の値を示すことが多くなり多少改善傾向にあります。これは中国の大気汚染が減少したことによるものだと考えられます。
1970年代から被害が相次いだ酸性雨ですが、色々な取り組みにより、以前より酸性雨という言葉自体あまり耳にすることが無くなりました。ですが、大きな被害はなくとも酸性雨が降り続けているのが現状です。今もなお国内で降る酸性雨の原因となる硫黄酸化物が、どこから来ているものなのかを調査したデータによると、原因の半分を締めるのは中国から飛来してくるものであり、次に国内、そして自然現象である国内の火山、朝鮮から飛来してくるものなどが原因でした。
やはり大半の原因である中国の排出ガスが減少しないことには、日本の酸性雨は完全には改善しないでしょう。中国に限らず日本国内でも個人個人が取り組む意識も大切になってきます。移動手段である自動車やバイク、飛行機などは欠かせないものですので、なくすことはできないですが、乗る回数を減らすだけでも排出ガスを削減できます。
一人一人の取り組む気持ちが良い環境へと導いてくれるでしょう。