雨というと、どこか寂しげで、空の色も灰色でどんよりとした中、冷たい雨が降り続き、雨音もずっと鳴り響くというようなイメージを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
雨が強いと、外へ出かけずに家の中や室内で過ごす時間が増えますよね。何もすることがない時、静かに読書をするのはいかがですか?そんな雨を題材にした小説はいくつかありますが、その中でも雨を感じながら読みたい小説をご紹介いたします。
いま、会いにゆきます/市川拓司
作品は、著者である市川拓司さん自身の病気体験がベースとなっていて、奥様との恋模様や旅行の話など、市川さんの生活の中で実際に起こった出来事がたくさん描かれています。
1年前に最愛の妻を亡くし、夫である彼は息子と2人で慎ましく過ごしていた。「1年たったら、雨の季節に又戻ってくるから」という妻が残した言葉が気になっていた2人の前に、1年たったある雨の日、亡くなったはずの妻が現れます。2人は喜んだものの、妻であろうその女性は過去の記憶を全て失っていた。そこから3人の共同生活が始まります。家族の愛と絆、普通の日常がどれだけ幸せかが描かれた感動的な小説です。雨の日に雨音が鳴り響く中、小説の雨の風景を思い浮かべながら読めば、より一層切ない家族愛に胸がしめつけられる物語です。
やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女/皆藤黒助
それぞれ雨の文字が入った名前を持つ女子高生と男子高生の2人が、謎の心霊写真と、女の子の名前の由来である五色の雨の真相を解いていく青春ミステリーです。
五色の雨の降る朝に・七夕に乞う酒涙雨・雨夜の月にさよならをの3話で構成されています。雨の知識がたくさん盛り込まれており、雨を好きにさせてくれる魅力のある作品で、人の優しさについて考えさせてくれる温かい物語です。
この恋は世界でいちばん美しい雨/宇山佳佑
好きな人と幸せを分かち合いたい。ただそれだけを願った二人の奇跡の恋の物語です。と著者である宇山佳佑さんが書いています。
幸せな時間がずっと続いて欲しいと思っていた2人に、思ってもみない困難が訪れ、過酷で切ない物語です。
美しい雨のなかで生きる意味、本当の幸せとは何なのか、大切な人との出会いがどれほど素敵なことなのか、あらためて気づかせてくれる内容で、優しい雨を感じることができ、雨のイメージが変わる作品です。
あらしのよるに/きむら ゆういち
オオカミのガブとヤギのメイの友情物語に感動した子どもたちも、もう大人になっているはず。「あらしのよるに」を次の世代に手渡すために、そして、あらためて読みなおして味わうために
あらしの夜、オオカミのガブとヤギのメイが、お互いの素性を知らないまま気持ちを通わせていく、ふしぎな友情物語です。人間同士に例えると、人の第一印象や見た目だけで判断してしまうことは誰もがあることだと思いますが、心を通わせることで繋がるものはあるということ、心地よい関係には人種など関係ないということを改めて考えさせられる物語です。子どもの時に見たことがある方も、大人になって改めてまた読んでも何度も感動するお話しです。
この雨がやむまで、きみは優しい嘘をつく/此見えこ
明日、雨が降ったら死のうと絶望していた男子高生は、母子家庭で育ち病気の妹の治療費のために野球をやめ、他人の幸せを妬むようになっていました。そんなある雨の日に、中学の時の同級生の女の子に、あなたを買いたいのと彼の時間を30万円で買うと言われ、そこから彼が変わっていく純愛物語です。彼女の優しい嘘がとてつもなく切なく、天気の雨や晴れの情景が、彼の感情に繋がっているようなものを感じられ、前向きになれる作品です。文章表現がとても優しく、読みやすさからも素敵さをとても感じられます。1度ではなく何度も読み返すことで、感じ方や考えが変わり、嘘に対する考えが変わっていくのかなと思います。ぜひ手にとって見てください。
小説 言の葉の庭/新海誠
劇場版アニメーション「言の葉の庭」の小説版です。新海誠監督と言えば「君の名は」を思い浮かべる人は多いと思いますが、こちらも新海誠監督の世界観に、雨と緑が多く描かれた青春小説です。雨に関する万葉集も登場し、雨の世界に引き込まれます。雨の日に同じ場所で出会い、心を通わせるようになった男子高生と高校教師の2人のそれぞれの葛藤と、恋物語です。男子高生の真っ直ぐな気持ちと、高校教師の抱えた辛い気持ちとが入り交じり、切なくもどかしい展開ですが、劇場版を観てまだまだ世界に浸りたい方には、ぜひ小説の世界にも浸っていただきたい作品です。
それぞれの作品で、違った雨の世界を感じられるそれぞれのストーリーが、色々な世界へ導いてくれると思います。雨の日に、雨の世界観に浸りながら、切なく悲しい物語もあれば、明るい気持ちにさせてくれる物語をその時の心情に合わせて選んでみてはいかがでしょうか。