秋の季語である秋雨は、日本において8月後半頃から10月頃にかけて降る長雨のことを言います。
秋の長雨、秋霖(しゅうりん)、薄梅雨(すすきつゆ)とも言います。夏から秋への季節の変わり目は、秋雨前線により天候が不安定な日が続き、秋雨をもたらします。
夏の暑さから気温がだんだん下がり、秋の涼しさが訪れるまでのこの時期、梅雨時期の雨とは違いしとしとと降り続き、どこかもの哀しげで、心を落ち着かせてくれる不思議な空気が漂います。ふと、人生について深く考えさせられる時間が流れ、それらが多くの句で表されてきました。数え切れないほどある俳句の中から、秋雨や秋の雨を使用した句を見ていきたいと思います。
夏目漱石は、千円札の肖像画のイメージが強い人が多いのではないでしょうか。
1984年(昭和59年)11月1日から発行され、2007年(平成19年)4月2日を迎えるまで、日本で発行されていた旧千円紙幣です。有名な小説では、吾輩は猫である・坊っちゃん・三四郎・こゝろなどがあり、小説の他に多くの俳句を残しています。
・秋雨や 蕎麦をゆでたる 湯の匂
季語は秋雨で、外では秋雨が降っており、蕎麦を茹でているお湯の匂いが漂っているという意味です。
他の夏目漱石の俳句作品は、
・範頼の墓濡るるらん秋の雨
・祖師堂に昼の灯影や秋の雨
・酸多き胃を患ひてや秋の雨
・かき殻を屋根にわびしや秋の雨
などがあります。
与謝蕪村は、江戸時代中期の日本の俳人であり、文人画家である俳句に絵をとり入れる俳画を生み出した人物です。
俳画の代表的な作品は奥の細道図巻です。そんな与謝蕪村の俳句は、
・秋雨や 水底の草を 踏わたる
季語は秋雨で、秋雨が降っていて、川の底が見えるくらいの浅い川の水草を踏んで渡ろうという意味です。
正岡子規は、日本の近代文学に多くの影響を与え、明治を代表する文学者の1人です。
夏目漱石とは東大予備門で同窓だったこともあり、お互いに刺激しあい化学反応を起こしていた仲であったと思われます。
・秋の雨 荷物ぬらすな 風引くな
季語は秋の雨で、秋の雨、荷物を濡らさないように、風邪を引かないようにという意味です。
・紫陽花や 青にきまりし 秋の雨
季語は秋の雨で、紫陽花が咲いている、花の色を青に決めたのは秋の雨だろうという意味です。
正岡子規の俳句は多くあり、秋雨や秋の雨の句だけでも物凄く数があります。
・大木の 中を人行く 秋の雨
・ひもじさに紙屑かむや秋の雨
・ひるまでも灯のともりけり秋の雨
・三島迄駕を雇ひぬ秋の雨 正岡子規 秋雨
・みちのくのはてゞあひけり秋の雨
・又一人頬かふり行く秋の雨
・折々はあかりもさして秋の雨
・掃溜に鴉鳴くなり秋の雨
・月ぬいてさびを見せけり秋の雨
・杉暗く鴉なくなり秋の雨
・松風をおさへてふるや秋の雨
・柴又の寺を出つれは秋の雨
・柴又の茶店出づれば秋の雨
・秋の雨月になる夜のおもしろや
ここに書いた以外にもまだまだあるので、ご興味があれば調べてみると面白いでしょう。
高浜虚子(たかはま きょし)は、明治・大正・昭和の3代にわたる俳人であり小説家でもあります。
正岡子規の高弟であり、正岡子規の俳人としての精神を引き継ぎ、俳句雑誌であるホトトギスの編集にも携わっています。生涯に詠んだ句は10万句以上と言われております。
・秋雨や 身をちぢめたる 傘の下
季語は秋雨で、秋雨の中、身をちぢめて傘の下にいる季節という意味です。
ほかには
・破れ傘 さして遊ぶ子 秋の雨
・屋根裏の 窓の女や 秋の雨
・大寺の 戸樋とひを仰ぎぬ 秋の雨
などがあります。
小林一茶は、松尾芭蕉、与謝蕪村と並ぶ江戸時代を代表する俳諧師の一人です。
彼の俳句には、朗らかで慈愛に満ちた俳句がいくつかありますが、その人生を知れば、俳句からは想像のできないほど寂しくて辛く、また女性であれば幻滅してしまうような人生を送っています。しかし、俳句の世界での功績は認められ、後世に名を残す人物となったのです。
・馬の子の 故郷はなるる 秋の雨
季語は秋の雨で、馬の子が故郷を離れる時に降る秋の雨を表しています。
ほかに、
・秋の雨小さき角力通りけり
・ ほろほろと むかご落けり 秋の雨
などがあります。
中村草田男(なかむら くさたお)は、俳人であり国文学者です。
俳句雑誌であるホトトギスから客観写生を学び、後に入選し、ニーチェなどの西洋思想から影響を受け、生活や人間性に根ざした句を模索しながら句を残しました。
・秋雨や 線路の多き 駅につく
季語は秋雨で、秋雨が降りしきる日、線路が多い駅についたが、雨はまだ降り続いているという意味です。
日野草城(ひの そうじょう)は、ホトトギスで俳句を学び、旗艦を創刊、男性が眼差す女性のエロスを主題とした句や無季俳句を作り、昭和初期の新興俳句運動を主導しました。
・秋の雨 しづかに午前 おはりけり
季語は秋の雨で、秋の雨が降っている。雨音以外は静かに午前中が終わってしまったという意味です。
俳句にご興味のある方は、秋だからこそ感じられる秋雨にまつわる俳句を楽しんでみてください。